30分/2005年、2007年(再編集版)
撮影:川瀬 慈 ジャマル・モハメッド
編集・録音:川瀬 慈
使用言語:アムハラ語(日本語字幕)
撮影場所:ゴンダール エチオピア連邦民主共和国
撮影:2004年
エチオピア高原北部を広範に移動する“ラリベロッチ(単数:ラリベラ)”と呼ばれる唄い手たちは、早朝に家の軒先で唄い、乞い、金や食物を受け取ると、その見返りとして人々に祝詞を与え、次の家へと去っていく。ラリベロッチのこうした活動は、瞽女(ごぜ)や春駒など、農作物の豊穣や家族の平穏を祈って各地を回ったという、わが国の門付(かどづけ)芸能者や、托鉢の僧侶の姿を思い起こさせる。
ラリベロッチは、唄うことを止めるとコマタ(アムハラ語でハンセン氏病の意)を患うという差別的な言説のもと、謎に満ちた集団として人々のあいだで語られてきた。ナレーションや解説字幕を極力排した本作は、ラリベロッチの老夫妻が、エチオピア北部の古都ゴンダールにおいて行った活動を記録した。ラリベロッチは、近所の住人たちに家々の主の名前、宗教、職業、家族構成等の情報をあらかじめ取材し、歌詞の内容へと反映させていく。そして金品などの喜捨を受け取ると、祝福の台詞をその人物や家族へ捧げ、次の家へと移動する。ラリベロッチに対する人々の反応は一様ではない。そこからは、親しみ、侮蔑、羞恥など人々の様々な感情が伺える。ラリベロッチ側も、たとえ人々に拒絶されても決してひるまず、絶妙なジョークによってその活動を正当化しつつ、人々の彼らに対する好意的な反応から邪険な対応にいたるまでユーモラスに歌唱にとりこんでゆく。芸能を生み出す根源的な力がエチオピアの路上に生きている。